本年度は、設計構造行列(DSM)の作成方法について研究を行った。DSMの作成には、企業のエンジニアなど外部者の協力が必要なため、分析範囲や設計要素(部品や設計活動)の明確な定義および作業手順がなければ、正確なDSMの作成が困難なためである。 DSMの作成方法の策定にあたっては、国際DSM会議(ストックホルム)への参加が大きな助けとなった。DSM作成の実務について、米国や欧州、インドなどの研究者と意見交換を行い、DSMの基本要素である設計要素の定義とその測定方法について貴重な情報を得た。 こうして得た情報とこれまでの研究成果から、組織内における分業関係の定義や境界線があいまいな日本の組織においては、欧米で発達してきたDSMをそのまま適用し分析を行うと、その結果は日本の組織の実情とかい離してしまう懸念がより明らかになった。この事態を回避するため標準的なDSMの作成プロセスを策定するとともに、複数の担当エンジニアとの個別もしくは集団面談による設計単位の定義が必要であり、その作業プロセスの手順について検討を進めた。ただし、本年度作成したDSM作成プロセスはまだ不十分な内容であり、引き続き改良が必要である。 また、国際DSM会議への出席により、国際的な研究ネットワークが構築できたことは、大きな成果であった。さらにDMS研究に先行して取り組んでいる研究者から、DSM分析ソフトの試作版を入手できたことは今後の研究への弾みとなった。DMS分析は手動でも不可能ではないが、規模の大きなDSMには自動計算ソフトの力が不可欠であり、筆者の能力ではソフトウェア開発に-から取り組むのは大きな制約であった。今後も国際的な研究ネットワークを維持し、情報の収集に努める一方、日本のものづくりにおける設計活動の特徴をDSMによって分析し、その研究成果を発信していきたい。
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