本研究は、買収プレミアムが成否に重要な影響を与える買収手法である「TOB(株式公開買付)」に注目し、その買収プレミアムの決定要因を明らかにすることが目的である。その際、日本企業の実態を適切に反映させるために、財務面からのアプローチに加えて、所有構造面からのアプローチを採用する。日本企業のTOBにおける買収プレミアムの決定要因に関する先駆的な研究に、文堂(2005)の研究がある。そこでは、(1)目標所有比率との正の関係、(2)所有構造(1株当たり株主数、上位10位所有集中度)との負の関係、(3)金融機関所有比率との正の関係が発見されている。本研究は、文堂(2005)の研究に見られたいくつかの課題(プレミアム測定期間の精緻化、業種間の影響の処理、株主分散度および所有集中度の計測方法の精緻化、検出された関係の因果関係の厳密な解明)を克服し、より完成度の高い分析を行う。研究期間は2年間であり、初年度である平成20年度では、データ収集を中心に作業を進めた。すなわち、1990年から2007年までのTOBを金融庁に提出された公開買付届出書およびレコフ社の「マールM&AデータベースCD-ROM」から拾い上げてリストを作成した。そして、公開買付届出書、意見表明報告書、公開買付報告書などから、各TOBにおけるTOB開始日、終了日、事前取得比率、目標所有比率、買い付け比率などをリストに加えた。さらに、対象会社の有価証券報告書から、株主分散度、所有集中度、各主体所有比率を計算し、買収プレミアムの測定に必要なTOB発表前の対象会社の株価を拾い上げた。これらは、次年度に行う分析作業の準備である。
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