本研究の目的は、日本企業に対するM & A、とくにTOBの買収プレミアムの決定要因について、ターゲット企業の財務関連指標および所有構造関連指標の両面から解明することである。研究手順としては、研究計画に記したとおり、前年度までに作成したデータを使用して、はじめに買収プレミアムを被説明変数とする単回帰分析、次に重回帰分析を行った。その結果、まず財務関連指標については、規模、成長性、資本利益率、売上高利益率が説明力をもつことが明らかとなった。続いて所有構造関連指標については、目標所有比率、金融機関所有比率、取締役所有比率が説明力をもつことが明らかとなった。 さらに、研究計画のとおり、これらの財務および所有構造関連の有意な変数のうち、とくに重要な変数を浮かび上がらせるために、これらの変数を組み合わせながら複数の回帰モデルを構築し、重回帰分析を実施した。その結果、財務および所有の両面でとくにTOBの買収プレミアムに影響を与えている変数およびその符号は、規模(純資産等)(+)、簿価時価比率(+)、ROE(+)、売上高利益率(+)、目標所有比率(+)、上位10位株主所有比率(-)であった。さらに、回帰モデルの補正R2は最大で0.37となった。 この結果の意義と重要性は、(1)先行研究では検出されてこなかったROEや売上高利益率といったターゲット企業の財務指標が買収プレミアムに正の影響を与えていることが明らかになったこと、(2)先行研究ではほかにも影響要因として検出されていた所有構造指標のうち、財務・所有の両面を組み込んだ分析によって、上位10位株主所有比率のみが所有構造関連の影響要因とみなせること、すなわち有意な財務指標と所有構造指標には相関しているものがあることが明らかになったこと、(3)先行研究よりはるかに高い説明力をもつモデルを構築することができたことにある。(779字)
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