2009年度はチーム生産理論を援用することにより、企業と環境との相互関係の中から生じる関係特殊資産の形成プロセスをコーポレート・ガバナンスの視点から考察した。コーポレート・ガバナンスのあり方、とりわけ、取締役会のステーク・ホルダーに対する資源(レント)配分への方向性が、企業特殊資産の蓄積・形成に大きな影響を及ぼすと仮定した。ここで重要な課題となるのは、企業特殊資産もつ価値や重要性は、企業に応じて異なることである。 このようなチーム生産アプローチに基づいたガバナンスの先駆的研究を以前から行っている豪州クイーンズランド工科大学Gavin Nicholson上級講師と共同研究を行うことにより、日本企業の環境条件ならびに、組織アーキテクチャ形態に応じて、企業特殊資産形成プロセスにおけるコーポレート・ガバナンスが果たす役割が異なることを解明した。Yin(2003)のケース・メッソドを用いた探索的アプローチから、生産財の特殊性が高く、情報共有型かつコーディネーション型の組織アーキテクチャを保有した企業では、日米の融合型もしくは、日本型のガバナンス形態を採用する傾向がある一方で、生産財が比較的コモディティ化されており、株主の企業経営への影響力・圧力が強く、情報カプセル型かつ垂直的ヒエラルキーに基づく組織アーキテクチャをもつ企業では、米国型のガバナンス形態を採る傾向にあることを明らかにすることができた。その上で、このようなコンティンジェンシー要因とガバナンス形態の間の整合度合いが企業業績に正の影響を与えていることを実証した。ただし、こうしたコンティンジェンシー要因のそれぞれの相互補完性や関係性については解明することができなかった。このことは、今後の課題としたい。 このような2009年度の研究成果は、苦心の末、年度末に獲得できたものであり、2009年度内での論文あるいは、学会発表に間に合わせることはできなかった。しかし、こうした実証結果は、2010年度以降の論文・学会にて逐次発表していく予定である。
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