最終年度は、主に本研究で得られた基盤産業の経営革新に関する研究が既存研究においてどのように位置付けられるのかを検討した。その成果として、本年度は1本の雑誌論文の執筆と1回の学会報告を行った。 雑誌論文である2010年3月に刊行された『同志社商学』同志社大学商学部創立60周年記念論文集に執筆した「中小企業の情報化の意義」では、情報技術が基盤産業にビジネスモデルの変革をもたらす可能性があることと、製造に関する技能を取引先企業に漏洩してしまう恐れがあるという正と負両面の影響を及ぼすことを述べ、それらの相容れない見解を統合する分析視点の提示を試みている。そこで得られた分析視点は、広く中小企業論で論じられている情報化に関する既存研究を整理するためにも有益であると考えている。 また、学会報告である2009年に熊本学園大学で開かれた日本中小企業学会全国大会で行った「中小企業の情報化に関する研究の成果と課題」では、従来の中小企業論の中で捉えられてきた情報技術の役割とその限界を指摘し、新たな分析視点の必要性を提議した。発表の場であった日本中小企業学会は、多くの基盤産業を対象とする研究者が参加する学会である。そこで報告することにより、本研究の成果報告だけに留まらず、基盤産業の多様性や異なる情報技術の捉え方などの今後取り組まなければならない新たな研究課題が導出された。今後は上記で得られた課題を踏まえ、関連する研究成果を継続的に発表していく予定である。
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