研究概要 |
統合基幹業務パッケージシステム(以下, ERP)導入企業3社に対する事例調査に基づき, 運用開始直後から5年間に発生した保守作業を調整的保守, 適応的保守, 拡張的保守, 予防的保守, ユーザ支援, 外的関係の6つの保守分類に区分し, 1ヶ月ごとに保守の発生件数を示した。この研究を通じ主に次の2点が明らかとなった。 第1に, 保守の発生件数の傾向からERPの5年間の運用段階は3つに区分できることである。第1傾向期は1ヶ月目から11ヶ月目であり, 拡張的保守を除く5つの保守分類で保守が高い頻度で発生する。第2傾向期は12ヶ月目から36ヶ月目であり, すべての保守分類で保守の発生は少なく, 増減の変化も小さく推移する。第3傾向期は37ヶ月目から60ヶ月目であり, 拡張的保守や適応的保守の発生に伴い, すべての保守分類で保守が増加する。 第2に, ERPの保守の特徴は従来め作り込みによる情報システムと同じではないことである。作り込みによる情報システムを対象としたSMLC(Software Maintenance Life Cycle)モデルでは, 第1段階の導入ステージではユーザ支援が, 第2段階の成長ステージでは修正が, 第3段階の成熟ステージでは拡張が, 保守要求として増加することを示唆している。しかし, ERPでは第1傾向期にはユーザ支援だけではなく他の保守分類に関する保守も高い頻度で発生する。また, 第2傾向期では特定の保守が増加することはなく, すべての保守分類で保守は一定の頻度で発生し, 推移する。さらに, 第3傾向期では拡張的保守だけではなく, すべての保守分類で保守が増加し, 必ずしも拡張的保守に関する保守の発生件数が他の保守分類と比較して多いとはいえない。 以上の成果は, 作り込みによる情報システムとは異なり, パッケージによる情報システムであるERPの運用において, 各期で重要となる保守の変化を明らかにしている。
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