研究概要 |
統合基幹業務パッケージシステム(ERP)ついて,運用開始から60ヶ月間での保守活動の特定と,その活動の重要度を解明するために統計分析を行った。本分析から次の2点が明らかとなった。 第1に,各保守活動の重要度は運用段階で一様ではないことである。主成分分析から2つの主成分が抽出され,ユーザ支援,予防的保守,外的関係が主要な保守作業である第1主成分を「安定運用活動」,拡張的保守が主要な保守作業である第2主成分を「改善活動」と解釈した。さらに,両主成分の主成分得点からこれらの活動は運用段階の各期で次の特徴を有している。第1傾向期(運用開始直後から概ね15ヶ月目)では両活動の主成分得点は対照的な値を示しており,安定運用活動が強く重視されている反面,改善活動は重視されていない。第2傾向期(概ね16ヶ月目から36ヶ月目)では保守作業件数が減少することから両活動の主成分得点は低く,大きな保守活動は必要とされていない。第3傾向期(概ね37ヶ月目から60ヶ月目)では改善活動の主成分得点が高いが,安定運用活動の主成分得点も改善活動に付随しており,互いの活動が重視されている。これらの結果から,運用段階の各期で適切な保守活動とその管理が必要であると考えられる。 第2に,各保守作業間の相関関係は時間経過とともに変化することである。特に,第1傾向期ではユーザ支援と予防的保守に強い正の相関があるが,第2傾向期以降では拡張的保守と外的関係に強い正の相関がある。外的関係は安定運用活動での主要な保守作業の1つであり,この拡張的保守と外的関係の相関関係が第3傾向期で安定運用活動が改善活動に付随して重視される要因であると考えられる。 以上より,ERPの運用には長期に及ぶ運用段階を計画することが重要である。本研究成果は,ERP導入直後の企業が保守の内容と時期(タイミング)を計画する上で参照可能であり,有用であると考える。
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