研究の最終年度となった平成22年度は、職揚のエントリー・マネジメントを効果的に行うための指針となるべく研究成果をまとめ、学会等において研究成果の発表を行った。第1には、上場企業277社と、学生253名から得られたデータの因子構造を比較した結果、企業が重視している価値観と学生が重視するそれとは、(1)両者の見ている次元自体が異なりうること、(2)類似の価値観であっても、そのニュアンスは必ずしも一致しているわけではないことなどが見出された第2には企業のリクルーティング戦略に対して示唆を与える。学生は企業が期待するほど自社の長所に注目せず、逆に企業の短所を予想以上に気にすると思われる。つまり、企業属性についてネガティブな部分とポジティブな部分を注意深く比較検討して志望企業を選定していくというような合理的な思考作業がなされず、企業属性にネガティブな要素があると、それだけで、第一印象としての初期企業魅力を損ね、就職先候補から外されてしまう可能性が示唆された。第3には、学生は、企業を選ぶ際には社風適合と同様に給与水準は重要な要素であると考えている。しかし、内定取得の可能性になると給与水準の重要度を低くする結果となった。つまり、社風適合と給与水準は重要な要素ではあるのだが、内定を取るためには給与水準を低くしなければという複雑な意思決定プロセスがあることが見出された。第4に、組織での早期離職を防ぐためには、上司および同僚との対人関係をうまく築いて、自分と他者との間に、信頼感がある愛着関係を形成することは大切なことである。そのためには、互いの信頼感を高めることで、不安や心配があった際に1人で抱え込まずに頼ることができるとこの組織にいたいようになる。組織において若者の早期離職を防ぐためには、愛着関係を構築する仕組み作りが必要であることが示唆された。
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