研究概要 |
本研究課題は、卸売業者を意図を持った主体として取り扱い、チャネル構造変化を理論的・実証的に研究するものである。特に、取引費用や組織能力といった新制度主義アプローチのツールを用いて、卸売業者の主体的な意思決定を描きだしてきた。 既存研究は、卸売業者を環境変化に受動的に対応する「受身」の流通機関とみなしてきたが、この認識の背景には、研究者が製造業者や小売業者に研究努力を傾注してきたという事情があったと思われる。しかし、もし卸売業者が環境決定論に従う受身の存在であれば、研究者は環境要因を知るたけで、戦略や組織を描き出せてしまう。それに対して、卸売業者の組織能力や資産特殊性などの主体的要因のチャネル構造への影響の存在を指摘したことは、本研究の成果である。 具体的な研究発表は別途報告書の通りであるが、当該年度中に発行が間に合わなかった書籍について記しておきたい。渡辺達朗・久保知一・原頼利編著(2011)『流通チャネル論-新制度派アプローチによる新展開-』が2011年度に出版される。この書物には、単著2本、共著2本の計4本が収録されている。第1章の「新制度主義的流通チャネル研究の展開」では、卸売流通研究を含むチャネル研究における新制度派アプローチの到達点と課題についての学説的研究を行った。この研究は,3年間の理論研究のまとめとして位置づけられる。 また、22年度に行ったアンケート調査に基づいて、「卸売業者が作り出す顧客価値とその源泉」なるタイトルで、インフォーマルな研究会(KT研究会)にて2011年1月に報告を行った。この研究は現在学会誌への投稿を目指して準備中である。それ以外に、マーケティング・メトリクスの英文テキストの翻訳を行った。我が国ではほとんど紹介されてこなかった卸売流通のメトリクスを紹介した。この書物は『マーケティング・メトリクス』として2011年度にピアソン・エデュケーション・ジャパンより発行予定である。
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