本年度は、前年度の研究をもとに設定した「消費者保護の達成には、政府が策定する流通政策と、企業および事業者団体が行うソーシャルマーケティング活動が不可欠であり、それら両者に保護施策を適切に配分することが有効である」という仮説を検証すべく、理論的整理に加え、広告表示分野における諸活動を検証した。 理論的には、企業活動から生じる市場の失敗の解消方法としては、政府が行う行政規制、法に基いて当事者である消費者が行う民事規制、企業が行う自主規制がある。このうち行政規制は規制の実効性が強いが迅速性やコスト面で政府の失敗を招きうるという問題、民事規制は当事者自身による権利回復が可能であるが回復不可能な被害に対して事後的解決にしかならないという問題、自主規制は企業間の競争優位の源泉になりうるが強制力に乏しいという問題をそれぞれ有するので、三者を併存させることが不可欠であると考えられる。 たとえば広告表示分野の偽装表示問題では、私人の裁判による権利回復は簡便性に欠けるので民事規制には限界もあるが、景品表示法などの行政規制に加え、マス広告媒体における自主規範やJAROによる紛争処理といった自主規制は有効に機能しており、行政規制と自主規制の折衷的な公正競争規約の有効性も高い。とくにこの分野では既に法改正による行政規制の強化が進められてきたので、今後は監視活動の強化や公正競争規約の未設定分野での設定など規制の運用面での取り組みが求められる。
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