本研究は、企業のマーケティングによる環境問題の対応に関する理解(以下、エコ・マーケティング理解)に焦点を当て、エコ・マーケティング理解におけるエコ理解の前提に迫る歴史的研究を通して、エコ理解の生成・変容メカニズムを明らかにすることが目的である。 初年度となる本年度においては、主に以下の二点が考察された。一つ目は、エコ・マーケティングにおけるエコ理解の前提に迫る方法論的視座の考察である。1970年代以降、研究者や実務家によってさまざまに定式化され語られてきているエコ・マーケティング理解には、グリーン・コンシューマーの想定の仕方によって2つのアプローチが見られた。エコ意識の高いグリーン・コンシューマーを想定するアプローチと、エコ意識を含むコスト・ベネフィットに従う消費者を想定するアプローチである。これら2つの異なるアプローチがあることからも、エコ理解の根拠を示し得ないことは明らかとなった。その上で、それにもかかわらず、エコ・マーケティング理解について語りえているのはなぜか、という両アプローチに共通する課題を浮き彫りにし、エコ・マーケティング理解におけるエコ理解の生成過程をとらえる視座の検討が必要であると考えられた。 もう一つの考察は、エコ理解の生成過程に焦点を当てた事例考察である。はっきりした根拠のないエコ理解はいかにして生成するか、という課題のもと、エコ製品の生成過程を辿った。事例を通じて、「エコである」という製品の評価があらかじめ存在しない状態から、企業外の非営利団体や消費者を巻き込んだ社会責任活動の取り組みの中で、「エコである」という価値が創造される過程をとらえた。これにより、エコ・マーケティング理解の根拠をグリーン・コンシューマーに求める限界が示唆され、エコ理解の生成過程をとらえる視座の重要性が明らかにされた。
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