研究概要 |
平成21年度は,わが国の大手監査法人の監査人を被験者として実施した,リスク評価の方法(信念関数か確率か)と立証命題(監査要点)の設定方法(ポジティブに設定した命題かネガティブに設定した命題か)の2要因を操作した2×2デザインの実験から得られたデータを分析し,次に挙げる結果を得た。 まず,信念関数あるいは確率を用いた場合に得られるリスク尺度のうち,信念関数のもとでの「立証命題が誤っているという信念」による場合にリスク評価が最も低く,「立証命題が誤っているというplausibility」による場合にリスク評価が最も高いとともに,確率に基づくリスク評価はその間の水準となることが明らかとなった。さらに重要な事は,Cobb and Shenoy(2003, 2004, 2006)によって提唱されている方法を用いて信念関数に基づくリスク評価を確率に変換した場合,変換されたリスク評価と確率に基づくリスク評価との間には有意な差異が見られなかった。さらに,監査証拠の評価に関しては,信念関数に基づく場合と確率に基づく場合との間に,証拠の強度の評価に優位な差は見られないが,証拠の性質(正の証拠か負の証拠化)の評価には違いが見られる場合もあることが明らかとなった。 また,立証命題の設定方法は,一貫して監査人のリスク評価に有意な影響を与えていることが示された。すなわち,同じ監査証拠が得られた場合でも,ネガティブに設定された命題を示された監査人のリスク評価は,同じ監査証拠が与えられた場合であっても,ポジティブに設定された命題を示された監査人のリスク評価よりも一貫して有意に高かった。このことは,監査人が一定の結論に達するために必要とする監査証拠は立証命題をどのように設定するかに影響されることを意味しており,監査の有効性と効率性に関する重要な結果である。
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