研究概要 |
平成22年度は,平成21年度までにおいて実施した,公認会計士を被験者とする実験の結果を論文の形にまとめ,複数の審査制海外ジャーナルにおいてその成果を公表した。 この実験では,主として(1)リスク評価の方法(信念関数か確率か)によって,監査人のリスク評価には有意な差はなく,監査証拠の評価に関しても,証拠の強度の評価には有意な差がみられないものの,一部の証拠の性質(ポジティブかネガティブか)の評価には違いがみられること,(2)立証命題をネガティブに設定した場合には,ポジティブに設定した場合に比べて,リスクを高く評価すること,という2点が明らかになっている。特に,前者の結論については,先行研究によって理論的に提唱されている変換方法によって信念関数によるリスク評価を確率によるリスク評価に変換すると,両者の間には有意な差がないことが明らかとなり,監査人がリスク評価を行う場合には,情報量が多い信念関数を用いるほうが望ましいことが示唆されている。また,後者の結論については,近年重要視されている職業専門家としての懐疑心を高めるための手段として,立証命題の設定方法を変えること,すなわちネガティブな立証命題を設定することが有効な方策の1つである可能性が示された。 この2つの主要な結果を,リスク評価の側面に焦点をあてた論文と証拠の評価の側面に焦点をあてた論文の2つにまとめ,海外の学会等において成果報告を行うとともに,最終的にそれぞれの論文を監査論その他の領域の海外ジャーナルにおいて公表した。
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