平成22年度の研究では、次の2つの成果があった。 第1に、投資政策と配当政策の国際比較を実施した。具体的には、日本、アメリカ、カナダ、イギリス、フランス、韓国の上場企業について約20年間の分析を行った。投資政策に関する分析からは、日本企業は諸外国に比べて、設備投資や研究開発投資を削減する傾向が強いことが確認された。配当政策に関する分析から、諸外国では配当を支払う企業が減少傾向にあるのに対して、日本では配当を支払う企業が多いことが判明した。他のデータも考慮すると、日本企業の経営者は近視眼的行動をとっていると解釈することができ、日本企業の競争力回復のためには経営者に長期的視野が求められるという示唆が得られた。 第2に、ディスクロージャーに優れた企業の経営者予想について、期初の予測誤差と期中の業績修正行動の特徴を分析した。実証分析から、ディスクロージャーに優れた企業は、期初に保守的な業績予想を開示し、期中において経営者予想を小幅上方修正し、その修正幅は相対的に小さいことが明らかになった。期初予想を保守的に公表し、期中に小幅上方修正する経営者予想のマネジメントは、投資家の期待を上方へ誘導する効果を持つと考えられる。このことから、ディスクロージャーに優れた会社は、予想を公表することで投資家にサプライズを与えることを防ぐだけでなく、より戦略的に投資家の期待をマネジメントしているといえる。これに対し、ディスクロージャーが優良でない企業は、期初予想の修正幅は大きく、期初予想を実績が下回り、期中に大幅下方修正を行う傾向があることも明らかになった。
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