平成20年度は、まず、事業再編取引の実質をとらえるための視点と概念を明らかにすることにより、事業再編会計の準拠枠を設定した。事業の動態は、企業資産の転換プロセスとみることもできれば、株主資本の転換プロセスとみることもできる。前者の観点では、資産に対する支配が失われたかどうかで事業投資の継続・非継続が判断される。この観点の重要概念である支配は、資産(モノ)を自由に使用したり処分したりすることのできる排他的な力であり、その主体は企業である。それに対して、後者の観点では、事業のキャッシュ・フローに対する持分が清算されたかどうかで事業投資の継続・非継続が判断される。この観点の重要概念である持分は、事業から生じるキャッシュ・フローに対する権益または請求権であり、その主体は株主である。 事業再編によって事業投資の継続性が失われれば、その事業を構成する資産・負債が時価に評価替えされ、また、その事業を構成する資産・負債の含み損益が認識される。前述のとおり、事業の継続・非継続は、支配が失われたかどうかで判断することもできれば、持分が清算されたかどうかで判断することもできる。これら2つの規準が互いに独立であるとすれば、どちらにしたがうかで判断が異なることもある。したがって、同じ事業再編取引について異なる会計方法が適用されることもある。そこで、本研究では、支配の獲得・喪失および持分の取得・清算という2つの観点から事業再編取引を類型化し、それぞれに対応する会計方法を明らかにした。 事業再編会計の準拠枠を設定する過程では、会計上、資産の本質をどのようにとらえるのか、また、異なるタイプの請求権を持つ株主をどのようにあつかうのかといった論点が派生した。こうした論点の検討は平成21年度の課題である。
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