研究概要 |
本研究課題においては,特に戦前期の日本企業において会計記録が企業の意思決定にたいし,いかに役立っていたかを検証するものである。原会計データを集計した図表が研究にも用いられるケースは会計史研究において増大しているが,それよりも源流となる原会計データそのものがいかなる目的で作成され,以下に利用されたについては未解明な部分が大きい。そこで,本研究課題においては兼松という利用可能なデータを用いて,企業活動における会計記録の役割を把握使用とするものである。 年度は,昨年度に行った資料収集を継続するとともに,その分析を公表し始めることに注力した。具体的な研究対象として,戦前の兼松の主たるである羊毛事業において,大規模系織物業者を対象として委託方式で買付・輸入を行う第一勘定と,事故の見積りにおいて買付・輸入を行う第二勘定の2つがあり,両者の合成によって兼松の業績は管理されていたことを利益率の推移を通じて見た。また,会計記録がより具体的な局面において役立つことを示すためのケース・スタディとして,1923年の関東大震災発生当時における兼松の行動を検討した。日常的に兼松が行っていた記帳業務は,きわめて精巧で,最新の情報を記録したものであったため,関東大震災が発生した数日後には,起こりうる最悪のケースをすでに予想できており,これがその後の兼松の行動に大きく貢献したことが発見された。後者については,ABFH Workshopにおいて発表し,改訂された原稿を同誌で査読中である。
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