研究概要 |
本研究課題においては,特に戦前期の日本企業において会計記録が企業の意思決定にたいし,いかに役立っていたかを検証するものである。原会計データを集計した図表が研究にも用いられるケースは会計史研究において増大しているが,それよりも源流となる原会計データそのものがいかなる目的で作成され,以下に利用されたについては未解明な部分が大きい。そこで,本研究課題においては神戸を拠点とする貿易商社である兼松という利用可能なデータを用いて,企業活動における会計記録の役割を把握しようとするものである。 本年度は,昨年度に公刊を見たAccounting Business & Financial History(継続後誌はAccounting History Review)への論文を基礎として,2012年7月に開催されるXVIth World Economic History Congressにおいてパネルの一部となることが決定した。ここではaccounting in disasterおよびaccounting for disasterという二つの概念を用いて考察を行い,関東大震災という大災害においても企業が存続できるか否かの判断が会計記録に基づいていること,そしてその判断を可能とするためには保守的な財務政策に加え,継続的・規則的な会計記録の存在があったことを示した。 加えて,会計記録の役立ち方の具体例として,商品利益計算の精緻化の過程についての史料収集と整理を行っている。年度内での論文公表はできなかったがディスカッション・ペーパーとして意見を求める予定である。
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