研究概要 |
本年度では,保険会計における特殊性を明らかにするために,保険会社の特性に焦点を当てて考察を行った。本研究実績を通じて,保険負債の公正価値評価がもたらす経済的影響が改めて明らかにされたと考えている。 「箸の上げ下ろしまで指示する」と揶揄されるように,かつて日本の金融業は,国の監督下で運営される性格が強く,厳しく規制されていた。保険業においては,業務の範囲,保険料率,商品設計などが規制されていた。こうした規制は,金融機関は原則として倒産させないという方針で行なわれ,金融システムの安定を目的としていた。脱落者を出さないことを前提にするこの方針は,「護送船団方式(行政)」などと言われた。金融ビッグバン以後,こうした方針が転換され,金融検査は財務諸表の数値とその裏づけとなる会計監査を補強するものと位置づけられた。つまり,一般の企業と同じ企業会計基準に従い会計処理を行うことが求められた。しかし,保険業においては,他業種との比較は極力避けられ、同業種間での比較に焦点が当てられていた。保険業には時価会計に関する緩和措置が設けられる一方で,ソルベンシー・マージン比率およびその内訳が一般に公表され,同業種間で健全性の程度を競うことが求められている。しかし,保険業の特性を配慮した取り扱いは,将来的には認められなくなる可能性が高い。保険会社に対する諸規制は,監督規制と企業会計の両面から国際的な枠組みが形成されつつある。その変化の大きさは,1995年の保険業法改正から始まった規制緩和を上回るものかもしれない。
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