本年度は、まず診療プロセスレベルのマネジメント手法である診療プロトコルマネジメントを日本医療界が90年代に学んだアメリカ医療界におけるその手法の展開について、80年代から90年代にかけての病院経営管理に関する文献調査を基に明らかにした。そこでは、DRG定額払い制導入以降、コストマネジメント手法として看護部中心に診療プロトコルが普及し、90年代半ばまでかは病院にとって必須の管理ツールとなるとともに、全職種チームにより取り組まれる質と原価の統合的管理手法へと進展していったことが明らかになった。またアメリカ医療界における診療プロトコル開発活動を通じたコストマネジメントには、医療サービス原価企画としての諸性質が見られることも明らかになった。また文献調査により、日本医療界における診療プロトコルマネジメントの史的展開も明らかにした。日本医療界においても、90年代後半以降、先駆的な病院を中心に診療プロトコルマネジメントが普及し、今日では大病院ではほとんどのところで実施されるようになったが、アメリカと異なり、クオリティマネジメントの手法として導入されてきたことが明らかになった。しかし2000年代後半以降のDPC払い制導入の広がりを受けて、コストマネジメント(原価企画)手法としての性格を強めつつある状況も明らかになった。さらに、文献調査等により明らかになった先駆的な診療プロトコル・コストマネジメント(医療サービス原価企画)が見られる病院を中心に、その実態のインタビュー調査を開始した。診療プロトコル開発活動を通じた医療サービス原価企画の詳細な実態調査や先駆的な病院における事例調査などの本格的な調査は次年度以降の課題であるが、本年度までの調査からも、医療サービス原価企画ともいうべきコストマネジメント実務が、2000年代後半より日本医療界において広がりつつある状況が推察された。
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