2年目である平成21年度は、パイロット・テストとケース・スタディを実施した。 第一に、会計監査とコーポレート・ガバナンスが利益の質へ与える複合効果を検証するためのパイロット・テストを行った。特に、わが国で2008年4月から導入された「内部統制の評価と監査」に焦点を当て、実証的なテストを実施した。なぜなら、「内部統制の評価と監査」は、2002年以降頻発した会計不祥事により財務諸表監査の有効性に疑問が呈され、それを補完するために導入され、これにより財務諸表監査と内部統制監査という2本立てで財務報告の信頼性を確保する体制が確立されたからである。そこで本研究の目的を達成するため、財務諸表監査と内部統制監査について実証的な研究を実施した。その結果、わが国では内部統制に「重要な欠陥」があると開示した企業は、保守的な会計行動をとる可能性が高いことが明らかとなった。 第二に、内部統制の有効性についてケース・スタディを行った。1つは上記の内部統制の「重要な欠陥」を開示した企業である。例えば、セイコーエプソンは、内部統制により中南米子会社3社において、9年間にわたり売掛金の過大計上および貸倒引当金の過少計上により42百万ドルの利益を過大に計上していたことが発覚した。またビジネスブレイン太田昭和は、子会社の繰延税金資産において取崩しの検討及び認識が不十分であったため、連結決算処理における重要な処理誤りが判明した。もう1つは内部統制が有効に機能している企業である。たとえば、ファースト・リテイリングは内部統制を整備することにより受発注や決算の確認手順が明確になった。また日清オイリオグループは内部統制で業務を可視化したことで、間接業務を一括処理するシェアードサービスの導入がスムーズになった。 最終年度である次年度は、本年度の知見を踏まえ、コーポレート・ガバナンスと会計監査が利益の質へ与える複合効果を検証する予定である。
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