研究概要 |
研究最終年度である22年度は、これまでの調査に基づき、2004年3月期から2008年3月期までのわが国公開企業8,129社・年を対象に、コーポレート・ガバナンス、監査報酬、利益管理の関連性を分析した。分析の結果は以下のとおりである。第一に、ガバナンスの独立性と監査報酬は正の関連性がある。第二に、リスクとガバナンスの交差項は監査報酬と有意な相関を示さなかった。第三に、投資家から経営者への圧力が強いと考えられる企業ほど、ガバナンスの独立性と監査報酬が高い傾向がある。第四に、ガバナンスの独立性と監査報酬は、目標利益達成行動と有意な負の相関が発見された。第五に、ガバナンスの独立性と監査報酬がともに高い場合に目標利益達成行動との負の関連性はみられなかった。追加分析からは,第一に、ガバナンスの独立性の水準と監査報酬が正の関連性があること、第二に、所有構造の違いはガバナンス構造および監査報酬と関連性があることを示唆させる証拠が発見された。 本研究の特徴は、これまでわが国では制度、実務上は重要性が指摘されながらも、学術的な解明が十分に行われておらずミッシングリンクであったコーポレート・ガバナンス、監査報酬、利益管理の関連性について理論的、実証的な解明を行ない、新たな知見を提供している点である。第一に、わが国でも外国人投資家や機関投資家を背景としてガバナンスの独立性が強化されているとともに独立性の高いガバナンスと外部監査は相互に関連性をもつ、第二に、独立性の高いガバナンスと十分な監査報酬には経営者の利益管理を抑制するという仮説と一貫する証拠が観察された。また第三に、社外取締役と社外監査役、独立取締役(監査役)と関係取締役(監査役)の役割に相違があること、第四に、これらガバナンス構造と所有構造との関連性には一定の類型的特徴があることを明らかにした点は、今後の関連分野の研究に対する貢献となる。
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