第1に、時価測定の信頼性に関する先行研究を整理し、これまで行ってきた日本企業の実態調査と併せて、研究課題を明らかにした。研究課題として、信頼性の定量化と日本企業を対象とした実証分析の必要性があげられる。 第2に、日本企業を対象とした時価測定の信頼性に関する実証分析を行った。分析の対象は、1998年から2002年にかけて行われた土地再評価である。この分析の重要性は、時価評価を行った多くの企業が、その後に時価が低下している環境においても、対象資産を売却した際に売却益を計上しているという実態があり、この実態の解明と時価評価の信頼性を分析・評価する点にある。分析の結果、時価評価を行う際の簿価と時価との差額の符号や大きさが、その時価の測定方法の選択と、後の期間における売却益の水準とに影響を与えていることが分かった。具体的には、多額の評価益がオンバランス化する状況では、複数の代替的な評価指標の中から、比較的時価の水準が低い固定資産税評価額や路線価による相続税評価額を選択する傾向が明らかになった。また、時価評価を行う動機(本研究では債務仮説)が測定方法の選択と後の売却益の水準とに影響を与えていることや、不動産鑑定評価は他の価格指標を用いた場合に比べて劣ってはいないが別段優れてもいないこと(本来、優れていることが期待されている)が明らかとなった。 以上の結果は、2009年9月に開催された日本会計研究学会・第68回大会において、「土地再評価の『再評価』-時価測定の信頼性に関する分析」として発表した。時価評価の信頼性を評価する際に、有益な材料となることが期待される。
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