研究概要 |
本年度はリース会計基準の変更の際に,投資家がリースの借手(レッシー)に対してリスク評価を変更するかどうかを検証した.坂井[2010(會計)]では,ファイナンスリースの将来の支払義務に関する情報が初めて注記に開示された時点に着目し,開示前と後とで投資家のリスク評価(β)に変化がないことが示された.坂井[2010(証券アナリストジャーナル)]では,注記に開示されていたファイナンスリースが財務諸表本体に認識されるようになっても,平均的には,投資家のリスク評価に変化がないことが示された.このことは,情報は注記に開示されていても本体に認識されても,投資家は同様に処理して意思決定に利用しているだけでなく,会計基準変更に伴うレッシーの投資行動の変化をも見越していたことを示している.しかし,一部の業種(『機械』と『非鉄金属および金属製品』)については,開示方法がかわったことによって投資家がリスクを上方修正していることがわかった.これは,特定の業種についてのみ注記開示が本体認識より劣ると考えるよりも,これらの業種については,投資家がレッシーの投資行動の変化を見越すことができなかったと考えるのが自然であろう.となると,なぜこれらの業種について投資行動の変化を見越すことができなかったのか,また,会計基準の変更によってレッシーがどのように投資行動を変化させるのか,といったことが今後の研究課題として残る.しかし,注記情報が本体情報に劣らないという今回の実証結果は,注記情報を本体情報に劣るという前提で新しいリースの会計基準を提案している国際会計基準委員会(IASB)やアメリカの財務会計基準審議会(FASB)の議論にたいして一石を投じると言えるだろう.
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