研究概要 |
本研究の目的は,わが国の財務諸表監査の実務においても採用されるようになった「事業上のリスク等を重視したリスク・アプローチ」または「ビジネス・リスク・アプローチ」という監査方法の実態を明らかにすることである。わが国の先行研究ではほとんど研究対象となっていなかったこの監査方法について,実務上の取り扱いに焦点を当てた実験研究を通じて,その有効性を検証した。特にわが国の先行研究にはない発話プロトコル法による実験により,ビジネス・リスクの高低や監査人の「評価戦略」などが,監査人の判断にどのような影響を与えるのか,ひいては監査の有効性にどのような影響を有するのかを調査し,監査の有効性向上のためのインプリケーションを引き出すことが具体的な目的であった。 9人の公認会計士(会計士補を含む)に協力してもらい,プロトコルデータを収集することができた。そのデータを分析し,監査人が証拠資料(情報)をどのように捉え,処理していくのかを検討した。検討結果からは,監査人が証拠資料(情報)をpositive(命題は正しい)に捉えるのか,negative(命題は誤っている)に捉えるのか,その順序によって,リスク評価に違いがある(positive戦略の方がnegative戦略よりもリスク評価の値が低い)ことがわかった。 現在,この結果を英文でまとめており,2010年前半にはニューサウスウェールズ大学でのセミナーにおいて発表する予定である。
|