本年度の研究では、企業価値関連性の決定要因に関して、ふたつの会計情報の側面からアプローチを試みた。まず前年度から引き続き、Shiller testをクロス・セクション分析に応用して、残余利益モデルによって株価が説明される年度をそうでない年度から区別することで、企業価値関連性に関する分析結果の精度が担保される期間を明らかにした。とくに、従前の分析では残余利益モデルで説明しえない残差が、クロス・セクションで無相関であるという仮定が強すぎる点に欠陥が指摘されていた。今次の分析ではこの点に鑑み、いったん株価を収益性や企業規模といった諸変数に回帰した残差を計算し、この残差に対してShiller testを応用した。この手法によって、クロス・セクションで株価に相関をもたらす要因を、ある程度排除することができたと考えられる。結果として、この修正を実施しない場合と同様、バブル経済およびITバブルとよばれる時期に、残余利益による企業評価が適用しにくいという結論を得た。また、業種ごとに同じ分析を繰り返したところ、バブル経済期にはほとんどすべての業種で、現実の株価の分散が理論値によって与えられる分散の範囲を超えていたが、ITバブルの時期には、通信やサービス業において顕著な分散の増加が観察された。 他方、近年開示する企業が増えつつある環境会計情報が企業価値に与える影響について、環境報告書からデータを抽出して検証した。収益性や規模をはじめファンダメンタルを構成する諸要因に比較すれば、その影響の度合いは明らかに低いものの、この情報をもとに株式ポートフォリオを組成した場合、長期でみて市場平均を上回るリターンが獲得されることが析出された。企業価値を説明する要素は市場のフォーカスとともに移り変わるが、その種類は確実に増加しているとみてよい。こうした情報がコーポレート・ガバナンスをはじめ、企業属性にどの程度影響されるかを解明することが今後の課題である。
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