本研究は、直接の利益を得られないにもかかわらず運動/集合行為に参加・関与する「良心的支持者」の観点から、「薬害HIV訴訟」に関与した人々を検討した。こんにちなお、社会的に孤立する多くの薬害HIV感染者は、偏見差別の渦巻く中で、1980年代に生起したゲイ・リベレーションのような「カミングアウト」を参加の前提条件にすることが困難であった。それゆえ、本調査研究で聞き取りの対象者のように、自身の感染についてカミングアウトすることなく、一人の「良心的支持者」としてエイズ・ボランティアや原告団「支援」活動にコミットするケースがあった。確かにHIV感染は見た目で判断できるものではない以上、感染の事実を打ち明けなければ、運動に関与することは可能であるように思える。しかし、自分のプライバシーを秘匿したまま良心的支持者たちと行動を共にすることには、常に露見の危険がある。本調査研究では、良心的支持者の集まりの中に一定のルールがなければ、感染被害者が良心的支持者と共同することは叶わないことを明らかにした。これらの知見は、従来の運動参加に関する議論にみられたような、当事者と非当事者とのあいだの葛藤関係とは異なる側面を照射している。 以上の研究成果は、国際社会学会(スペイン・バルセロナ)、および日本社会学会大会(東北大学)での口頭報告および「輸入血液製剤によるHIV感染問題調査研究委員会」の最終報告書にて、「いわゆる『集団告知』の多声的記述」、「『薬害HIV期』を生きた医師のライフヒストリー--マイノリティ意識に裏打ちされた医師観の形成」「『牽制し合う』医師-患者関係」の3論考、および医師・感染被害者の聞き取りの逐語録を掲載することができた。
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