本研究は直接の利益を得られないにもかかわらず運動/集合行為に参加・関与する「良心的支持者」の観点から、おもに「薬害HIV訴訟」に関与した人々、今年度はさらに日本の血液事業を検討した。平成22年度は特に、(1)当事者が良心的支持者として振る舞うことで訴訟運動へ関与したケース、(2)良心的支持者との活動を通じてHIV/AIDS観を転換したケース、(3)当事者を支えるためのネットワーク形成、(4)当時の血液事業体制について考察した。 1980年代から続く偏見と差別の渦巻く中で、一部の薬害HIV感染被害者たちは、自身の感染についてカミングアウトすることなく、一人の「良心的支持者」としてエイズ・ボランティアや原告団「支援」活動にコミットしていた。確かにHIV感染は見た目で判断できるものではない以上、感染の事実を打ち明けなければ、運動に関与することは可能であるように思える。しかし、良心的支持者たちと行動を共にすることには、常に自分のプライバシー露見の危険がある。本調査研究では、(1)良心的支持者の集まりの中に一定のルールがなければ、感染被害者が良心的支持者と協働することは叶わないこと、(2)良心的支持者との「社交」を通じて社会との接点を持ち得たこと、(3)組織的活動が「衰退」していると表象されながらも「支援者を支援するネットワーク」により当事者支援が可能となっていること、を明らかにした。これらの知見は、当時の被害のありようの他、従来の運動参加に関する議論にみられたような、当事者と非当事者とのあいだの葛藤関係とは異なる側面を照射している。 以上の研究成果は、日本社会学会誌「社会学評論』掲載論考(査読済み、2011年6月刊行予定)、および東北社会学会(新潟大学)での口頭報告、日本社会学会(名古屋大学)でのポスター報告の形で公表した。
|