本研究は、アメリカ合衆国のブッシュ政権が実施した「信仰に基づくイニシアティヴ」政策の正当性とその貧困救済効果とを理論的・実証的に検証した。特にブッシュ政権からオバマ政権へと政権が移行するなかで、この政策の変容過程にも注目した。 「信仰に基づくイニシアティヴ」の予算、およびその予算の各宗教組織に対する配分の割合を調査し、ブッシュ政権とオバマ政権との間の差異について検証した。ブッシュ政権と比較して、積極的に予算を配分してはいないものの、この政策を継続しようとする前政権からの連続性を指摘することができる。 「信仰に基づくイニシアティヴ」政策をめぐってなされている研究者やジャーナリストの言説分析をおこなった。この政策は、「保守主義」あるいは「新保守主義」対「リベラル」という構図には収まりきらない論点を多く含んでいる。保守・新保守の側からは、宗教組織の社会サービス提供活動を政府が積極的に後押しすることに対して肯定的評価が与えられると同時に、宗教組織の活動に政府が関わることによって、宗教組織の自律的活動が阻害されたり、政教分離の名の下に宗教組織が「信仰」に基づく活動を中止せざるを得なくなったりする、という問題点が指摘されている。他方で、リベラルの側からは、社会保障政策の補完という意味において意義を認める見解も出されているが、特に原理主義的な宗教組織による排他性を伴った活動に対する懸念も表明されている。
|