上野における実証研究の成果を、「ノスタルジー・ブームと00年代の「下町」」および「グローバル化とパブリックスペース--上野公園の90年代」(『戦後日本スタディーズ<3>』所収)といった論文で公刊する一方で、本年度は千葉県柏市での質問紙調査、聞き取り調査に注力した。それらの調査は主に、報告者が以前より関与している柏市の地域活性化団体ストリートブレイカーズおよび、同団体が千葉県より委託された地域活性化プラットフォーム事業のコーディネイト業務に参与観察する形で行われた。中でも、当該プラットフォーム事業の評価として行われた各種市民イベントでの質問紙調査を企画・作成・配布し、約1000件の回収数を得た(予想以上に多くの回収数を得たために、この集計・分析を主な目的として、当初予定より多くの謝金を支出することとなった)。その質問紙調査の二次分析からは、地域の固有性や多様な文化的アメニティの魅力に拠らずに地域への愛着を醸成している郊外住民の実態が窺われた。これまでのまちづくり論とは一線を画すこの発見は、平成21年度に学会報告などで公表する予定である。 またこれらの作業と平行して、「「場所の力」とどうつきあうか」(『こころのたねとして』所収)では、グローバル化時代の都市戦略における「多様性」の扱われ方とその課題について、理論的に整理した。この議論はさらに、シンポジウム「場所の力-歩きながら考える」での共同報告へと発展的に展開され、大阪市釜ヶ崎地区を中心とした研究グループとの対話の中で相互に有益な刺激を与え合うこととなった。
|