本年度は、上野地区の商店主に対する聞き取り調査と、東京都議会議員選挙における参与観察を中心に、上野・台東区地域における実証研究を精力的に進め、その主要な部分を印刷中の論文「「地域イメージ」、コミュニティ、外国人」(『多文化社会の<文化>を問う--共生・コミュニティ・メディア』所収)にまとめた。同論文では、上野というフィールドを事例としながらも、流動性の激化という現代都市が置かれた環境の中で、地域コミュニティの称揚・活性化と、都市の多文化化という二つの価値が衝突してしまう局面について、既存研究にない理論的な整理をすることに成功した。また、都議会議員選挙の参与観察をもとに、現在の地方政治の投票行動に垣間見える地域コミュニティの液状化状況と、1930年代のそれを対比した「もうひとつの「希望は、戦争」」(『オルタ』2009年9-10月号)を寄稿し、社会的な発言も試みた。また、本報告書には記していないが、上野商店街連合会ならびに上野中央通り商店会において、上記の研究をフィードバックする講演を行う機会も得た。 昨年度行った千葉県柏市での質問紙調査、聞き取り調査の成果に関しては、その一端を、ウェブ記事「郊外(的)なるもの」(森記念財団ホームページ内)および、国際ワークショップ『カルチュラル・タイフーン2009』において「サブカルチャー、地域意識、ジモトつながり:郊外の現在」と題されたセッションをオーガナイズすることなどによって発表し、社会学領域のみならず、都市計画、建築などの関係者から、学際的な評価を得た。 また、これらの研究からの先端的な知見は、現在印刷中の教科書・『社会学入門』の分担執筆にも生かすことができた。
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