不登校の居場所は、子どもをひきこもり状態から社会へと媒介する中間施設である。そこでは、ひきこもり状態から居場所へ「引き込む力」と居場所から社会へ「押し出す力」が並存している。こうした状況をスタッフの職務という観点から考察する場合、M. グラノヴェターの「弱い紐帯と強い紐帯」の議論が役に立つ。引き込む局面でのスタッフの職務は、強い紐帯のもつ「推移性」を利用して、子どもたちの間に強い紐帯を築くことである。すなわち、遊びなどをとおして、スタッフが子どもAと強い紐帯を作り、さらに子どもBとの間にも強い紐帯を作ることで、スタッフと子どもAとBの3者間の相互作用の密度を上げ、子どもAとBの間にも強い紐帯を築く。子どもAとBの関係が安定すれば、スタッフは子どもの間から離脱し、活動を子どもたちの自主性に任す。ただし、強い紐帯は、子どもを元気にするが、閉鎖的な下位集団も生み出しやすい。スタッフは、離脱した後でも、孤立した子どもが生じないように人間関係を調整する。一方、押し出す局面では、スタッフがもつ外部との弱い紐帯が重要になる。居場所ですごすうち芽生えた子どもの意欲を具体化するには、スタッフの力だけでは困難な場合もある。その際、スタッフがもつ外部との弱い紐帯を「橋渡し」にして、外部から協力を得る。現場は忙しいので、会報や予定表などを送りあって弱い紐帯を維持している。こうした居場所スタッフの職務は、個人的な経験やセンスに任され、系統だった研修などはおこなわれていない。また、遊びなどの活動内容から、一般の人びとからは「甘やかし」のように誤解されやすい。そのため、スタッフは、給与水準が低いこともあり、職務に対して不全感を抱きやすい。しかし、スタッフには、臨機応変に人間関係を使い分け、トラブルを調整する高度な能力が求められており、正当な評価がなされるべきである。
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