本研究は、中高齢期の医療・保健・福祉領域における「予防」志向の強まりの内実と社会的意義(功罪)、および、その志向が中高年期の人びとの生や、その支援に関わる人々に対してもたらす影響について明らかにすることを目的とした研究であった。この目的に対して、具体的には、インタビュー調査などで現場の実践を明らかにするミクロな研究と、現代社会の論理の変化や財政などの動きを追うマクロレベルの研究という二つの作業を行った。 昨年度は、後者に関する論文執筆等の作業が中心になっていたため、今年度は、前者に関する作業を、具体的には、若年認知症の人を支援する活動に焦点を当てて行った。既に前年度までに、若年認知症の人に対する予防とケアをともに実践しているデイサービスへのフィールドワークのデータをもとに何本か論文を執筆したが、そこにおいて提起された課題に関して追加データを集めるために、若年認知症の人たちの就労支援をする団体へのフィールドワークを新たに開始し、以前収集したデータとの比較検討を行った。その成果は、研究期間終了後になるが報告予定である。 また、昨年度より開始している、認知症ケアに関するNHKアーカイブスの映像データを用いた研究に関しても、データ整理を終え、昨年度末に福祉社会学関連の講座本に、論文を寄稿し、現在編集中である。この研究においては、認知症ケアにおける予防志向の強まりに関する命題を、映像データを用いることで精緻化することに主眼があり、研究の内容だけでなく、方法に関しても独自性のあるものとなった。
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