本研究は、中高齢期の医療・保健・福祉領域における「予防」志向の強まりの内実と社会的意義(功罪)、さらに、その志向が中高年期(何らかの疾病・障害を得て生きる時期を含む)の人びとの生や、その支援に関わる人々に対してもたらす影響について、社会学的視点・方法を用いて明らかにしていく。具体的には以下の(1)(2)を行う。(1)医療・保健・福祉領域全般において、近年とみに強調されている「予防」という発想が、政策化・実践化されていく際の論理とその内実(そして予想される結果)を、医療社会学や社会理論の枠組みを参照しつつ、具体的な対象領域を記述・分析する(マクロ社会学的な分析)。対象は、来年度より各健康保険者に義務付けられる特定健康診断・健康指導の動きと、認知症介護において強調される地域のMCI(Mild Cognitive Impairment軽度認知障害)予防の動き、の二領域である。 (2)上述の実践が、どのような問題性と可能性を有しているのかを、「予防」が語られ導入される社会的コンテクストとの関連で明らかにする。具体的には、いのちや健康という価値と強く結びつけて予防が語られた長野県の佐久総合病院の活動と、予防や症状の遅延、およびその先にある新しい薬の開発が生きる上での「希望」として語られる若年認知症の人と家族、および彼/彼女らを支援する専門職の実践を、フィールドワークやインタビューなどの質的方法を用いて考察する(個別事例を通した分析)。
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