昨年度は、「ひきこもり」に関する社会学的研究の到達度を自己評価しつつ、従来の研究が及んでいないような、多様な困難についての探索的な調査を進めた。 まず、これまでの研究成果を、共編著『「ひきこもり」への社会学的アプローチ-メディア・当事者・支援活動』(ミネルヴァ書房)として刊行することができた。また同書の内容を2つのNPOが主催するシンポジウムにおいて報告し、研究成果を還元するとともに、新たな課題の発見に結びつけることができた。 支援活動のフィールドワークでは、従来の「ひきこもり」支援に収まらないような、支援の限界ともいえるケースについて着目した。また、狭義のひきこもり支援団体だけでなく、医療、精神保健、労働、福祉といった関連機関での探索的なヒアリングを行った。 そこで浮かび上がったのは、第一に、「ひきこもり」ケースの行き着く先としての貧困の問題である。家族の高齢化や疲労が進んだケースでは、生活保護や障害年金の受給が現実的な選択肢として浮上している。また第二に、従来の居場所型支援の限界である。発達障害やパーソナリティ障害をめぐるケースでは、居場所運営の上で深刻な課題を提起している。こうした困難のため、関連機関との新たなネットワーク化の必要性も浮上している。 こうしたケースを視野に入れ、「ひきこもり」を包括的な枠組みから考える試みとして、「『若者の生きづらさ』と障害構造論」を紀要論文として執筆した。
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