性同一性障害の診断場面における性別の取り扱われ方を明らかにするために、東京の精神科クリニックにおいてICレコーダーによる診察場面の録音を行い、37ケースの音声データを得ることができた。一年間の調査を通してクリニックと信頼関係を深めることができ、次年度からはビデオカメラでの撮影によって、さらなるデータを得られることになった。カルテへの記入や視線のやり取りなどの身体の動きは、相互行為に大きな影響を与えるため、分析をさらに精緻化できる。音声データの分析結果は、順次、発表・投稿する準備を進めている。 また、FtX (Female to X)やFtM(Female to Male)、加えて彼らを恋愛対象とする人びとが集まる「中性ボーイッシュ」の集会において配票調査を行い、96票配布をしたうち、60票を回収することができた。それによって、出生時の女とは別の性別の人として生きようとする(すなわち性の多様なあり方を表現しようとする)人びとの傾向をつかむことができるようになっただけではなく、19名からインタビューの許可を得ることができた。 東京・神奈川と奈良・大阪・京都での自助グループなどの集会に継続的に参加し、より性の多様なあり方を認め合っている傾向が関西地方にあることを把握できた。それは「人権」をキーワードとした運動によっているようだ。それがどのようにして可能になっているのかは、調査を継続することによって把握していく。 「性の越境を明らかにしながらの就労」の仕方、受け入れに関しては、2名からインタビューの了承を得た。その2名を足がかりに、受け入れている側へのインタビューを実現できるよう、またさらなる調査協力者を募れるよう、調査を継続していく。
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