平成20年度は、神奈川県内4ダム(相模、城山、三保、宮ヶ瀬)の水没住民および事業関係者への聞き取り調査を重点的に進める予定であったが、本科研費における研究計画を本格実施する以前に、並行して進めていた別の研究活動においてこれらの調査を思いがけず進捗させることができた。よって当初は平成21年度に進める予定であった、神奈川県内4ダム以外のダム事業における水源地活1生化の状況について、平成20年度中に現地調査を想定していた以上に進めていった。 さて、国土交通省は、3年おきに実施している「河川水辺の国勢調査(ダム湖編)」において、ダム湖の利用者数が多いところは、(1)大都市の近郊である、(2)有名観光地が近隣にある、(3)施設が充実している、の3点を挙げている。しかし、例えば、全国で最も利用者数の多い宮ヶ瀬ダムと竣工時期がほぼ同じ温井ダム(広島県)では、上記の条件が整っていると思われるにもかかわらず、地域活性化の拠点宿泊施設が経営破綻し、民間業者へ売却せざるを得なくなるなど、上記のような外在的要件以外にも、どのような組織や人々が水源地活性化に関わっているのか、といった点は重要である。組織体制および地元住民の認識いかんによって、水源地活性化のありようは規定されるのであり、とりわけ、宮ヶ瀬ダムにおいては、神奈川県の積極的な関与により、全国的にも珍しい「周辺振興財団」という組織を設立することにより、関係団体の調整がはかられていることの意義と特殊性が際立っている。また味噌川ダム(長野県)における木祖村の取り組みも、地元に密着した上下流交流のモデルとして、神奈川県内4ダムの分析にとっても重要である。 以上、平成20年度は、神奈川県内4ダムを対象に今後の分析を進めるにあたり、その視点や比較対象をかなりの程度得ることができたように思うので、その成果を、平成21年度での分析に役立てていきたい。
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