2008年度は、3年計画の1年目として、(1)「交通」を社会学的に考察するための理論的枠組みや方法論の検討、および(2)調査対象に関する予備的な調査の実施を主に行った。(1)に関しては、本研究が対象とする事例においては大規模公共事業の実施における市民参画の側面が重要な研究課題となるが、そうした事象を中心に、受益・受苦概念の再検討、および「公共性」概念の整理を行い、その成果として2本の論文を発表した。さらにこれら論文では、具体的な事例としてのパブリック・インボルブメントのこれまでの経緯、および現状と課題の検討もあわせて行った。これまで社会学内部で積み上げられてきた成果に加えて、「交通」という事象を扱う場合に検討すべき課題について、明確なものを設定することができた。(2)に関しては、直接的な対象となる外かく環状道路(東京区間)の事例について、市民運動を行っている計画沿線の地域住民への聴き取り調査を中心に、行政資料の収集なども行ったが、その結果、さらに補うべき部分を把握できたので、引き続き調査を行っていく必要がある。さらに2009年度に実施を予定していた量的調査については、上記調査の結果、当初の研究計画からの変更の必要性が判明した。2009年1月以降、国レベルで計画が大きく進行し、特に地域住民の調査に対する「受け取り方」を考慮すると、研究計画で想定した時期に実施することが適当か否か、現時点では判断に迷う部分がある。調査を実施すること自体に変更はなく、外部の協力者と議論をしながら質問紙の準備などを進めているが、実施時期や調査内容を中心に、慎重に検討を進めていくべきことが判明した。
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