今年度の中心的なひとつめの成果は、これまでの研究成果や収集した資料をもとに執筆したNationality and Local/Cultural Identity : The Japanese-German Children in Dusseldorfを発表したことである。この論文は、Japanese and Nikkei at Home and Abroad : Negotiating Identities in a Global World (Nobuko Adachi編)に所収された。多文化社会における「国籍」や「(日常的に使用する)言語」の問題を、ナショナルな枠組みだけで論じる視点ではもはや限界がある。そこに「ローカルなアイデンティティ(ローカリティや地元意識など)」を持ち込むことで、多文化環境に育つ子どもの実態に即した議論が可能になるということを上記の論文で述べた。 ふたつめは、ヨーテボリで開催されたThe 17th International Sociological Association World Congress of SociologyにおいてNationality and Local/Cultural Identity : The Japanese-German Children in Dusseldorfと題した研究発表を行い、同様のテーマに関心を持つ海外の研究者らと情報交換および有意義な議論をしたことである。日本語の言語的な特性やドイツにおける日系児童の社会的・文化的背景が、かれらの言語環境にきわめて深く影響していることをあらためて認識すると同時に、他の国・地域での興味深い事例を知ることが出来た。そこで得た知見をもとに、来年度以降はデュッセルドルフでの定点観測を続けつつ、日本とドイツ以外の多文化環境に育つ子どものアイデンティティ形成について考察していきたい。
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