研究概要 |
初年度20年度は, 環境被害者に対する救済制度・補償制度のあり方に関して, (1)文献等の渉猟と, さまざまな救済・補償制度の研究を通じて, 各システムの特長や補償等の水準を横断的に比較・検討する研究基盤をつくったこと, (2)今日なお遅れている「未認定患者」への対策を社会保障の観点から検討して, 一つの指針を示したこと, (3)環境被害の救済・補償制度のそもそもの成立過程を解明してきたこと, (4)現状の環境被害者の社会復帰に向けた対策(とくに保健面や福祉的な就労支援等)についての現地調査, を行ってきた。 まず, (1) については, 大気汚染だけでなく, アスベストやカネミ油症, 水俣病などの補償制度について横断的な研究会を組織し, 他の救済・補償制度との比較研究をするための指標を確立した。それにもとづき, 本年は大気汚染に関して後掲2本目の論文を発表した。 (2) については, 大気汚染に関しては, 国の認定制度が終了した中で, 今後どのような仕組みで救済を行うのかということを, 汚染状況, 被害者の現状, 財源等に関して総合的な調査研究を行い, その中間的な成果として後掲3本目の論文を発表した。これをたたき台に, 今後さらに具体的な制度設計の議論ができるものと思われる。 (3) については, 都市部で最も早く大気汚染公害が広がり, 国の公害健康被害補償制度の成立にも大きな影響を与えた大阪市西淀川区の調査を行い, 制度の成立過程について当時の地域医療を担っていた医師等関係者からヒアリングを行うとともに資料収集を行った。来年度は, これらの成果を論文にまとめ, 発表する予定である。 (4) については, 水俣病胎児性患者を中心とした授産施設兼生活支援施設「ほっとはうす」の現地調査(8月)を通じて, 環境被害者の社会復帰のため, 生活面のケアと同時に就労などを通じた社会参加を政策上後押しする施策のあり方, について研究をまとめる準備をしている。
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