本研究を含む研究の全体は、地方自治体の財政再建と、これと並行して進められる地域再生に関わる意思決定システムのあり方を、中範囲のシステム理論という社会学的視点を軸に、海外を含めた複数事例の体系的な比較研究によって考察し、「財政社会学」の展開のための基盤を形成するとともに、財政再建という喫緊の社会問題の解決に資することを構想するものである。 平成20年度においては、当初の研究実施計画にもとづき、8月にイギリス・ノッティンガム地域において、および11月に北海道夕張市において、それぞれフィールドワークによる現地調査を実施した。 イギリス・ノッティンガム地域における調査では、同国における旧産炭地域の現状と政府による振興計画の全体像の把握、および当該地域の状況を示すデータの収集に努めた。その結果、旧産炭地域振興のための各種の助成制度の性質について、わが国におけるものと詳細に比較する必要性があると思われること、および、当該地域の人口変動が、わが国における同種の地域と比較して小規模であることなどの知見が得られた。 北海道夕張市における調査では、同市が財政破綻に至った経緯とその背景にある事情の把握に努めるとともに、財政再建計画の進捗状況とその中で直面している諸課題についての情報収集を行った。加えて、地域住民に対するインタビュー調査を実施することで、同市の状況に対する一般市民の意識の理解を深めた。その結果、同市においては、国内の他の旧産炭地域と比較して、観光事業に対して極度に依存しなければならない社会的な諸条件が存在したこと、財政再建下にある同市の状況は非常に逼迫しており有効な手立てを講じないかぎり再建計画を完遂することが危ぶまれることの知見が得られた。
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