本研究は先進的な取組を進める障害者支援の専門職がもつ障害者観の特徴、その障害者観の広がりとその背景要因を明らかにすることで、障害者の能力に価値を認めた上で支援する障害者観の普及を可能にする要件を明らかにすることを目的としている。初年度の調査により、障害者本人にとっては「自分自身の状態をコントロールすること」が最大の困難であり、支援者は「本人の自己コントロールを可能にするための環境づくり」を重視して支援していることが探索的に明らかになった。 本年度は昨年度の結果を基に、理論的サンプリングを進め、就労継続支援A型作業所(1施設)、公的機関(1機関)、知的障害者を多数雇用している企業(3社)、障害者の就職コンサルティングを行っている企業(1社)の計6事業所の担当者に対して、それぞれの業態によって就労において生じる困難とその対処に関する配慮について面接調査を行った。結果より、要求する能力に水準を設けるかどうかは、A型作業所では全ての障害を受け入れるのに対して、その他の事業所では、一定の能力判断をして受入の可否を検討していたが、一度受け入れた障害者に対する接し方の方針には共通した価値観が語られた。すなわち、表現の形は異なるものの、事業の形態を問わず「障害の有無ではなく、その人の能力を見いだす」「見いだした能力を活かすことに喜びを見いだせる環境をつくり、結果として生産性を上げる」「障害のある就労者と支援者が共に働く同僚として日常のコミュニケーションをはかる」ことが重要な要素として共通して語られた。また、これら価値観は組織風土として健常の就労者の働きやすさを生み出すことも共通して指摘された。
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