本研究は先進的な取組を進める障害者支援の専門職がもつ障害者観の特徴、その障害者観の広がりとその背景要因を明らかにすることを目的として、研究開始後2年間において実施した質的調査を実施した。その結果より、一度受け入れた障害者に対する接し方の方針には共通した価値観が語られ、「障害の有無ではなく、その人の能力を見いだす」 「見いだした能力を活かすことに喜びを見いだせる環境をつくり、結果として生産性を上げる」「障害のある就労者と支援者が共に働く同僚として日常のコミュニケーションをはかる」ことが重要な要素として共通して語られた。また、これら価値観は組織風土として健常の就労者の働きやすさを生み出すことも共通して指摘された。 これまでに得た事例の分析を通じて、これらの価値観が専門職を超えて、地域住民にも共有されるうるかどうかについて観点を広げた検討の必要性が導かれた。よって、事例としては、初年度の質的調査の協力機関でもあった精神障害者の支援施設である浦河べてるの家が参加する地域防災の活動が、地域住民の障害者観を転換しうる取り組みであると考えられたため、この事例プロセスについての事例分析を行った。この取り組みからは、「障害者自身が参加する話し合う場の設定」「助かる方法の習得」「災害時をシミュレーションし、体験し、さらに想像すること」が重要であること、それを円滑に進めるためには6つのコツがあることが明らかになった。この継続的な取り組みの中で障害者にアクセシブルな防災活動を積み重ねることは、彼ら自身の安心のためであるだけでなく、地域全体の安心を作り出すプロセスであり、障害者は地域への貢献者、すなわち「リソースパーソンとして」捉えられる役割を果たすことが示された。この知見については、国連障害者の権利条約委員会のアクセシビリティに関する事例募集に対して、具体的な実践事例として提出した。
|