2年目にあたる平成21年度は、前年度に行ったテクスト分析を継続し、抽出された課題の分類を元に、多文化ソーシャルワーク理論の構築における課題を明らかにした。文化研究、多文化主義研究におけるエスニック・アイデンティティの理論研究の動向との関連性についても海外研究協力者の協力によって、テクスト分析を行った。分析結果から、ポストモダン・ソーシャルワーク理論におけるエスニック・アイデンティティは本質主義的であることが批判される一方で、エスニック・コミュニティ組織の実践レベルではエスニック・アイデンティティが戦略的に創出されていることが分かった。テクスト分析結果およびインタビュー調査結果の中から日本人コミュニティ福祉組織のケーススタディについて、2009年にニュージーランドで開催されたアジア太平洋ソーシャルワーク教育会議(20TH ASIA-PACIFIC SOCIAL WORK CONFERENCE)に参加し、演題発表を行った。さらに調査結果の分析から、オーストラリアの多文化ソーシャルワーク実践におけるエスニック・アイデンティティの創出の鍵としてICTの活用(ICTメディアおよびソーシャルネットワーキングサービスSNS)の重要性が確認できた。日本においても多文化ソーシャルワークにおけるICTの活用の意味を検証するために、福井県内において試験的に「外国人のためのパソコン学習会」を複数回開催し、学習会の運営においても地域SNSであるFレックスを活用し、参与観察や外国人参加者へのインタビュー調査を試みた。調査結果について、2010年に香港で開催される国際ソーシャルワーク連盟世界大会(2010 Joint World conference on Social Work and Development)に参加し、演題発表を行う予定である。
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