本研究の目的は、非営利団体を中心とした民間福祉団体の組織的特徴を明らかにし、それを踏まえて、アメリカ型福祉国家の民間福祉のインプリケーションを明らかにすることを目的としている。この目的のために、本年度もいくつかのNPOを訪問し、民間福祉の特徴を考察した。例えば、ニューヨーク市のNPOゴダード・リバーサイド・コミュニティ・センターは典型的なコミュニティを基盤とした歴史あるNPOであったが、民間資金を得る手段が多様化していた。大枠で言うと多くのNPOと同様に、民間財団、企業の社会貢献、個人寄付等であったが、特に低所得者中心の社会サービスを提供するため、企業の社会貢献等を得ることは一般的に困難だが、出版社や有名作家等とタイアップしてブックフェアをする等によりそれを可能にするなどの工夫がなされていた。このような民間福祉団体の財源を中心とした組織特徴の事例の整理はまだ残された課題である。一方、アメリカ型福祉国家にある民間福祉団体を特徴付けている特性、特に市場化の特性については、日本の動向と対比しながら論文執筆し、2011年5月中に『國學院経済学』に掲載される。また、福祉組織の特性について重要な分析視角を提供している「ワーカー-クライエント関係」に関する英語論文を日本語に翻訳した。さらに、アメリカ福祉国家で、福祉事務所ケースワークの現金給付とサービスの分離論争が、その後の積極的な民間福祉団体の活用がなされたきっかけとなったことが分かり、その論争の経緯と帰結を考察した論文を執筆した。これらの翻訳と論文は2011年3月発行の『北星論集』(社会福祉学部)に掲載された。本年度の研究により、民間財団の分析等の課題はまだ残っているが、民間福祉団体が持つアメリカ型福祉国家へのインプリケーションについては、市場化の側面と、社会福祉政策上のターニングポイントになった論争を含めて明らかにすることができた。
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