平成22年度は、これまでの政策研究、インタビュー調査の成果の整理、分析を行い、今後の家族介護者支援制度のあり方を検討した。なおそれに際し、介護者国際会議への参加、資料収集、現地のワーカーとの議論を通して、海外の動向把握も行った。以上の結果、現段階では以下の結論に至った。 まず、家族介護者の生活調整困難についてであるが、家事、介護、仕事は生活・生命に直接的に関わるためそれらを削ることはなく、高齢者の介護・世話を行うようになっても継続していた。結果的には「労働密度を上げる」ことによって対応していた。家族介護者の生活調整困難は、何かが「できない」という状態ではなく、全てのことを「無理して行う」という形で存在していた。 次に、家族介護者の抱える生活調整困難等問題に対する介護保険制度、サービスの効果についてであるが、「介護」の負担軽減以外の効果はみられていないと考えられる。家族介護者は「介護」に関することはケアマネージャーやヘルパーに相談できるが、それ以外の問題は福祉の専門職に相談するようなことではないと考えているケースが極めて多くみられた。一方では、家族介護者の多様な問題に耳を傾け、それに合わせたサービス提供を考えたケアマネが2名おり、そのケースは、家族介護者の負担軽減、健康状態の改善に大きく貢献していた。日本の介護保険政策、高齢者福祉政策はこれまで「高齢者」「介護」に焦点を当ててきたという政策的背景も、家族介護者の抱える多様な問題が取り残されている現状を生み出していると考えられる。 今後は、イギリス、オーストラリア等の動向も踏まえ、「家族介護者」を対象とした支援制度を確立し、家族介護者の生活調整困難状況に応じたサービス利用を可能とすることが不可欠である。
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