本研究によって明らかになったことは、近年見られる福祉国家の再編は、英国のブレア政権に見られるように、伝統的福祉国家や新保守主義的福祉国家の路線をありのまま踏襲しているわけでなく、現実の問題に対応し、再構成した福祉国家路線、現実対応型福祉国家路線の実現を目指しているということである。 このような再編は、社会民主主義と自由主義の双方のイデオロギーをその政治体制としてきた福祉国家が、どちらの利点も欠点も経験してきた中でそれらを踏まえつつ、直面する諸課題から模索した実践的方策であり、その体制は現実対応型福祉国家路線と評価できる。 しかし、あらゆる政策分野において劇的な変化をもたらすものでなく、政策を使い分ける政治姿勢自体は優柔不断ともとれ、政権維持という観点からすれば場当たり的に行き詰まるという危険もはらんでいるといえる。また、福祉国家の行政的側面・財政的側面の困難が過度に注日されていることも指摘できる。本来国家に求められる「21世紀の社会像」「福祉国家像」の構築が、行財政改革によってのみ可能であり、そこで指向されている効率性・効果性だけがあるべき社会を構築する基本的原理であるとする方向性は反省すべきといえる。福祉国家の課題が、非政治化され、行政的側面を解決することを基本的な考え方とするのは、社会に歪みを生じさせることになるといえる。
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