本年度は、前年度に開発したWebブラウザ型アクシデントレポートシステムを用いて、アクシデントデータの収集・分析を行った。介護事故に関するエビデンスを構築するためには、明確な定義・概念、分析枠組みに基づいてデータ収集を行う必要があるため、調査開始前に、リスクマネージャーに対してインシデント・アクシデントの定義や収集する事例の範囲、損害規模等に関する判断基準について説明を行った。また、本調査はインターネット回線を利用してデータ収集を行うため、IDやパスワードの管理、情報の取り扱いなど本システムを利用する際の注意点について説明した。データ解析は目下続行中であるが、現在のところ次のような結果が得られている。事故発生時の報告者の位置関係は「目視不可能範囲で発生」が51.7%と最も多く、「当該者の介助中・処置中、目の前で発生」は20.8%と少ない。損害規模では、「処置・治療の必要なし(レベル1)」が48.9%と最も多く、「通院治療を要した事例(レベル3)」2.8%、「入院治療を要した事例(レベル4)」1.1%となっている。「転落」事故の約8割が、認知症あり(認知症高齢者の日常生活自立度ランクIII以上)であった。発生場面は、「自力歩行中」が最も多く、「休息臥床中」「ベッドと車いす問」と続いている。損害種別では、「切傷・創傷・裂傷」「擦過傷」「打撲傷・挫傷」「内出血・あざ」が多くなっている。レベル3以上の事故の場合、報告者が強い精神的苦痛・ダメージを感じていることが明らかとなった。これらの結果は、日本老年社会科学会第52回大会(2010年6月)で発表する予定である。次に、前年度に行った安全文化に関する文献レビューを基に、安全文化に関する定量的調査の企画・設計、具体的調査項目の選定を行った。また、介護老人福祉施設において予備調査を実施し、質問項目及びワーディングの修正を行った。
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