本研究は、大阪府における『子どもの権利ノート』の導入が児童養護施設現場の施設職員の意識およびケア方法、施設の体制にどのような変化をもたらしたのかをインタビュー調査により実証的かつ構造的に明らかにするものである。 2008年4月から2009年2月にかけて、『権利ノート』作成以前の状況も知る勤務経験が10年以上の児童養護施設職員12名の協力を得た。半構造化面接によるインタビュー調査を行い、(1)『権利ノート』の印象(2)『権利ノート』の導入過程(3)子どもとめのエピソード(4)変化した体制や意識(5)『権利ノート』に対する評価について尋ねた。インタビューデータを丹念に読み込み、ライフヒストリー法による分析を行った。問いかけに対応するデータの切片化、まとまりをあらわす言葉をコードとして付し、時系列に並べ、事実と職員の意味づけに分類し整理を行った。 結果として、児童養護施設現場は、「集団指導から個人の尊重」「子どもの声を聴く」「プライバシーの尊重」「体罰によらない指導」「導くより後押しのスタンス」「抱え込み体制かち他の機関をまきこんでのチームワーク」という変化があった。しかしながら、施設の生活形態や職員配置基準の低さが変わらない状況において、新たに生じてきた問題、子どもとの葛藤、意識が高まったからこそ生じた職員の苦悩も明らかとなった。 子どもの権利条約が批准されて10年以上が経過したが、生活文脈における子どもとおとなの関係性の変化はほとんが明らかにされていない。本研究は、児童養護施設現場という生活文脈において子どもの権利の理念が浸透していく過程やおとなの意識の変遷を明らかにした。同時に、施設職員、つまりおとなの意識向上だけでは子どもの権利擁護を保障することが困難である現実も詳細に描き出した。根本的な制度や生活形態の変革の重要性はかねてから指摘されるところであるが、それが望まれる現実の有様を描き出したことが本研究の特徴である。
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