絵の印象を左右する要因を意識的に吟味・分析することが、その後に行う絵の印象判断に及ほす影響を検討した。実験には具象画と抽象画を1枚ずつ使用した。統制群の参加者は、絵の印象を左右する要因など意識的に吟味することなく、2枚の絵の印象を判断した。理由分析群は、絵の魅力を高める要因、魅力を低める要因のどちらか一方を意識的に分析・記述するように求められた。参加者はその後、絵の印象を判断した。分析群には理由の言語化がどれほど困難であったかについても回答させた。その結果、作品のポジティブな理由を分析した群は、具象画を好む傾向を強めたのに対して、ネガティブな理由を分析した群は、抽象画を好む傾向を強めた。理由を分析しなかった統制群に関しては、こうした選好の逆転は生じなかった。また、ポジティブな理由を分析した場合も、ネガティブな理由を分析した場合も、参加者は具象画のほうが理由を記述しやすいと回答していた。以上の結果から以下のような示唆が得られた。具象画は言語化の容易な視覚的要素を多く含んでいるため、理由を記述するとき、それが好きな理由であるか嫌いな理由であるかにかかわらず、人は理由を作りやすい。それに対して、抽象画は言語的手がかりが少ないため、理由の種類にかかわらず、理由を作りにくい。これらの理由をもとに好みを判断したため、好きな理由を分析した群では、好きな理由を挙げやすい具象画を好む傾向が増し、嫌いな理由を分析した群では、嫌いな理由を挙げやすい具象画が嫌われ、抽象画を好む傾向が増した。
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