好みはしばしば意識化や言語化の困難な要因に左右される。先行研究からは、意思決定時に好みの原因や理由を分析・言語化した決定者はしばしば、そうでない統制群と比べ、劣った決定をくだすことが確認されている。本研究課題は、理由の分析が選好判断に与える影響を検討することを大きな目的としている。 初年度(2008年度)は、絵画作品の良しあしを意識的に吟味した参加者が、作品の中に含まれる言語化容易な性質に過度に注目し、選好を混乱させることになることを示した。 本年度は、理由の分析が選好の混乱だけでなく選好の正当化をひきおこすという予測を検証した。 予備調査として、家庭用洗濯洗剤の購入時に何を重視すべきと考えるか学生に回答させたところ、8割以上がロゴなどのパッケージよりも、洗剤の効能を重視すべきと考えていることがわかった。 本実験では、実験刺激として架空の洗剤を用意した。これらの洗剤は洗剤の効能に関するキャッチコピーとロゴのふたつの属性から構成された。最初のセッションでは、洗剤のロゴを繰り返し見せることで、それらのロゴをもつ洗剤を好きになるよう、実験参加者に働きかけた。統制群にはロゴの反復呈示の操作は与えなかった。反復呈示セッションの後、選択セッションに移った。ここではより多くロゴが呈示された洗剤とあまりロゴが呈示されなかった洗剤のペアを用意し、参加者に欲しいと思う方を選択するように求めた。ただし、実験参加者の半数は、この選択セッションの前に'洗剤を購入するとしたらどんな点を重視するか'、意識的に分析するよう求められた。残り半数はそうした分析は求められなかった。これらの手続きにより以下の3点が予想された。1)ロゴの反復呈示によって特定の洗剤への好みが強まる。2)洗剤に対する好みがロゴの反復呈示によって操作されても、その影響を十分に自覚していない参加者は、効能情報に基づいて洗剤の魅力を判断しているつもりになる。3)分析群では、洗剤の効能を重視すべきという考えが強まることで、より効能を重視した決定を行っているつもりになり、ロゴを繰り返し見て好きになった洗剤を選択する傾向が強まる。結果からは予想がおおむね支持された。分析群は、非分析群と同様に、繰り返し接したロゴをもつ洗剤を好んだにもかかわらず、効能を重視して決定を行っていたと考える傾向を非分析群よりも強く示した。
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